軍国主義と治安維持法の自己増殖
治安維持法は二度、犯罪類型の拡張と重罰化を内容とする大改正を経ている
。結果、同法による弾圧犠牲者も果てしなく拡大した。この治安維持法の悪魔的機能の『増殖』現象
の背景には、寄生的土地所有と独占資本の両馬にまたがる『軍事的警察的天皇制』(旧日本軍国主義)の本質・役割とのかかわり
がある。
『聖域』としての『国体』観念
治安維持法は、保護法益に『国体』と『私有財産制度』の二本の柱
をおいた。ではこの国体とはなにか。これは、司法省によれば旧憲法における、万世一系の天皇による日本統治
(1条)、神聖不可侵としての天皇
(3条)、統治権の総覧者としての天皇
(4条)を意味するとされた。これらの条項は、旧憲法における近代的粉飾
をもぬぐいすてた生地の『絶対主義』を表現する部分
である。つまり治安維持法の国体は、旧憲法の『絶対主義』が生地のまま乗り移ったもの
であった。この国体は、国民が批判やそれを口にすることすらもはばかられる『聖域』
であり、国体は思想警察を中心とする暴力装置
で守られればならず、それのために犯罪類型の増殖
を必要とした。
『思想犯』類型と特高警察の増殖
治安維持法の『思想犯』類型は
、二度の改正によりタテ、ヨコに増殖をとげた
。ヨコへの増殖
においては、『結社』概念の拡張
が行われた。次に、タテの増殖
においては、『結社の目的遂行のためにする行為』という融通無碍
の犯罪類型が作られた。これは、前記結社のメンバーではない者を、メンバーとまったく同じ刑罰に処する法的根拠に使われた
。この結果、結社のメンバーに一夜の宿
を貸すとか、飯を食わせる行為まで処罰対象となった。
『転向』の強制と予防拘禁制
治安維持法の聖域は、これに反する思想を焚書
により、思想の持ち主を隔離
、抹殺
することになる。このために思想転向(『国体』への絶対帰依)が用いられた。検事は不起訴処分等の場で、裁判官は執行猶予等言い渡しの場で、思想犯保護観察審査会は保護観察にするか否かの決定を、裁判官は
刑期満了者を予防拘禁に付するか否か
の命令を、転向と引換に行使した。かくして刑期満了者は
非転向を理由に、そのまま獄につながれ、死ぬまで出られないのである
。
風早八十二『治安維持法五十年憲法』(1976年、合同出版)141−146頁。